淫フィールドフライ

アクセスすなーーーーーっ!!

童貞紳士と間接キス

大学の友達と食事に行った。月に一回くらい集まる3人組。

僕らはもともと大学の部活で知り合ったのだが、なんやかんやあって僕以外の2人は退部してしまった。部活を辞めた今でも僕たち3人はちょくちょく遊びに行ったりしている。

休みの日に友人とご飯に行く約束をするなんてことは、狭い友人関係しか持たない僕にとって非常にテンションの上がるイベントである。

そんなアゲアゲな食事はアゲアゲな状態で終わった。そんな楽しさの余韻に浸りながら帰りの電車に乗った。

電車内のヒーターにぬくぬくしながら座っていると、何個目かの駅で若いカップルが軽くイチャつきながら乗ってきた。金髪の彼氏と長い髪の毛のかわいい彼女だった。

ちょうど僕の隣の席がひとつだけ空いていたので、カップルの男性のほうが彼女に座るように促した。すかさず僕は男性に席を譲った。

普段なら寝たふりをしてごまかしたりするのだが、今日は前述のとおりアゲアゲな僕。サッと立ち上がり「どうぞ」の一声。男性のほうは見た目に反して腰を低くして遠慮したが、「僕、次で降りるんで」と言ったら照れくさそうに座ってくれた。

 

もちろん、「僕、次で降りるんで」は大嘘である。あと30分は電車に揺られなくてはならない。しかし、僕はアゲアゲなのだ。アゲアゲの童貞紳士なのだ。

 

心の中では、僕は黒いタキシードを纏い、頭にはシルクハット、手にはステッキを持った初老の紳士だ。

 

紳士はカップルに席を譲るものだ。心の中の童貞紳士は僕の脳内に優しく囁いた。こうして僕は優しいウソをついたわけだ。

 

さて、僕は自らの善人っぷりを誇示したいわけではない。重要なのはここからだ。

席を譲ったあと、カップルは二人そろって僕にお礼を言ってくれた。

お礼なんかいらない。むしろ今までイチャイチャしていた時間を童貞紳士がぶった切ってしまって申し訳ない。どうぞおふたりの時間をお楽しみください。

そう言いたげな僕の気持ちを感じたのか、カップルはすぐさまイチャイチャモードに入った。

男のほうがおもむろにキリンガラナをカバンから取り出し、プシュッと小気味良い音を立てながら開けた。なかなか珍しいチョイスだなと思った。

そのままキリンガラナを飲むのかなと思ったら、「飲んでみ?絶対ハマるから」と言って彼女のほうに渡した。彼女のほうが一口飲んで、味について二人で盛り上がっていた。ちょっとしたら彼氏がキリンガラナを受け取って飲んだ。間接キスだ。

間接キスを目撃してしまった。

赤の他人の僕だけがちょっと照れていた。

しかもめちゃくちゃ自然な間接キスだった。お互い間接キスだと認識してどぎまぎすることなんか一瞬もない非常にスムーズな間接キスだった。

すげーいいもん見れたし、席を譲った甲斐があったと満足していたところ、「次の駅で降りるんで」とウソをついた「次の駅」に停車した。

一回降りて隣の車両に乗ろうとドアのほうに移動しようとしたら、カップルが二人そろってまたもやお礼をしてくれた。マジでいいのに。間接キス見れたし。

いえいえ、と軽く会釈して降りた。正確には乗りなおしたが。

隣の車両に乗りなおし、席を譲ることって気持ちのいいことだと噛みしめていたが、あることに気づいた。

 

もしかしてあのカップル、イチャイチャムードの中で僕に「お礼をしなきゃ」と常に考えていたのではないか?

 

”『次の駅で降りる』って言ってたから、降りる直前がいいかな…”とか思いながらキリンガラナを飲んだのではないか?

 

”なんて言ってお礼したほうがいいのかな…”と常にシミュレーションしながら間接キス

を実行していたのでないか?

 

頭の中で僕のことを考えながらのキリンガラナの回し飲み。

つまりアレは、僕に向けての間接キスだったのだ。あのカップルのイチャつきムードの中に、間接キスのオーディエンスとして僕はしっかりと招待されていたのだ。

 

カップルの皆さん。電車で席を譲ってもらったら、間接キスの旅に招待してあげてください。童貞紳士からのお願いです。